病院経営の赤字が続き、職員の人件費削減に踏み切るべきか悩んでいませんか?
人件費の高騰や患者数の減少といった外部要因は、経営に大きな影響を与えます。
それに加え、改革を阻む組織文化など、内部に根差した問題に頭を悩ませる経営者も多いことでしょう。
本記事では、病院経営が悪化する根本的な原因を明らかにし、経営分析の手法から収益改善の実践方法を解説します。
とくに、職員のモチベーションを維持しながら生産性を向上させる、人事マネジメントの視点を重視しています。
ぜひ、持続可能な病院経営への参考にしてください。
多くの病院が経営難に直面しており、その背景にはさまざまな要因が複雑に絡み合っています。
とくに近年では、外部環境の変化だけでなく内部の組織的な課題も無視できません。
ここでは、経営悪化を招くおもな4つの原因を解説します。
これらの要因を正しく理解することが、改善策を講じるための第一歩です。
病院経営において、多くの専門スタッフを必要とする医療は労働集約型の事業であり、人件費が大きな割合を占める傾向にあります。
厚生労働省の調査によれば、医療法人立の一般病院における人件費比率は令和元年度57.4%から令和2年度58.8%へと上昇しており、増加傾向が見られます。
単純なコスト削減は、職員の士気低下や医療の質の悪化を招くおそれもあるでしょう。
そのため、業務効率化による生産性の向上が不可欠です。
参考資料:厚生労働省「令和3年度 医療施設経営安定化推進事業 病院経営管理指標及び医療施設における未収金の実態に関する調査研究」
病床稼働率の低下は、収益に直結する重要な経営課題です。しかし、用いる指標によっては実態が見えにくくなるため注意が必要です。
一般的な「病床利用率」は日々の患者数から算出されます。
一方で、病床機能報告の「稼働病床数」は過去一年で最大時の使用病床数をもとにする指標です。
厚生労働省の調査では、稼働病床数の比率が平均97.4%だったのに対し、実態に近い病床利用率は平均76.1%と大きな乖離がありました。
経営判断を誤らないためにも、実態に即した病床利用率を正しく把握することが不可欠です。
新型コロナウイルスの流行は、病院経営に深刻な影響を与えました。
感染対策による診療制限や患者の受診控えにより、外来・入院の収益が大幅に減少しています。
補助金による一時的な収支改善はあったものの、構造的な経営課題は解決されていません。
コロナ禍で加速したのは、オンライン診療の普及や患者の受診行動の変化です。
これらの変化に対応できない病院は、さらなる患者離れに直面しています。
感染対策にかかる追加コストも経営を圧迫し続けており、ポストコロナ時代の新たな病院経営モデルの構築が求められています。
経営改革を進めるうえで、もっとも根深い課題が組織内部の問題です。
とくに歴史のある病院では、旧来の慣習や固定観念が根強く残っている場合があります。
トップダウンで改革を進めようとしても、現場の職員から反発を招くことも少なくありません。
危機感の欠如や経営への当事者意識の低さが、改善の妨げとなっているのが現状です。
そのため、全職員を巻き込んだ意識改革や風通しのよい組織文化の形成が、経営改善の成否を分けます。
経営改善に取り組むには、まず自院の現状を正確に把握しなければなりません。
感覚的な判断ではなく、客観的なデータに基づいた現状分析が、的確な改善策の立案につながります。
ここでは、経営状態を可視化するための5つの視点を紹介します。
これらの分析を通じて、自院が抱える課題を具体的に洗い出しましょう。
まず、病院の収益の柱である入院と外来のバランスを見ることが大切です。
病院の収益構造は、この2つの収益で成り立っています。
両者の構成比や推移を分析することで、自院の収益特性を理解できます。
たとえば、外来収益への依存度が高い場合、感染症の流行などで患者数が減少すると経営が不安定になりがちです。
入院収益の割合や患者1人あたりの単価も把握しましょう。
この分析が、収益構造の改善に向けた第一歩になります。
病院全体の損益だけでなく、診療科や部門ごとの損益を明らかにします。
どの部門が収益に貢献し、どの部門が赤字となっているのかを正確に把握できます。
これは、病院の経営状態を詳細に知るための健康診断のようなものですが、すべての部門で黒字を出すのは困難かもしれません。
とはいえ、赤字の原因を特定することで、改善の糸口が見つかります。
不採算部門の縮小や得意分野への資源集中など、具体的な経営判断を下すための貴重な情報となるでしょう。
流動比率は、短期的な支払い能力を示す指標で、企業の財務安全性を測るうえで重要視されます。
この比率が低い場合、急な支出に対応できず、資金繰りが悪化するリスクが高まります。
計算式は「流動資産÷流動負債×100」です。
一般的に150%以上が健全とされ、200%以上であればより安全性が高いとされます。
この指標を定期的に確認することで、キャッシュフローの悪化を早期に察知できるでしょう。
健全な病院経営を維持するための、いわばアラート機能の役割を果たします。
自院の経営数値を、同規模・同機能の他病院と比較分析することを、ベンチマークといいます。
自分の病院だけのデータを見ていても、その数値がよいのか悪いのか客観的に判断するのは困難です。
他院と比較することで、自院の強みや弱みが明確になります。
比較する指標は病床稼働率や平均在院日数、職員1人あたりの医業収益など多岐にわたります。
この比較分析により、改善すべき具体的な目標を設定しやすくなるでしょう。
効率的な経営改善を進めるための、効果的な手法の1つです。
年次決算だけでは、経営判断のスピードが遅れてしまいます。
経営状況をリアルタイムに近い形で把握するため、月次決算の早期化が不可欠です。
問題が発生した場合でも、迅速な対策を講じることが可能になるので、月次で損益計算書や貸借対照表を確認する体制を構築しましょう。
予算と実績の差異を毎月分析することで、経営の軌道修正を素早く行えます。
変化の激しい時代において、スピーディーな意思決定を支える肝要な仕組みです。
自院の経営課題を特定したら、次はいよいよ具体的な収益改善策を検討する段階です。
収益改善のアプローチは多岐にわたりますが、着実に成果を出すには体系的な取り組みが求められます。
以下に、多くの病院で有用とされる6つの改善方法をあげます。
それぞれ見ていきましょう。
地域の診療所や病院との連携を強化することで、紹介患者の増加を図れます。
紹介率の向上は、診療報酬上の加算にもつながり、二重の効果が期待できます。
地域の開業医への訪問活動を定期的に実施し、自院の専門性や設備をアピールしましょう。
紹介しやすい環境を整えるため、紹介予約システムの導入や返書の迅速化も効果的です。
また、逆紹介を積極的に行うことで、地域医療機関との信頼関係が構築されます。
地域医療連携室の機能を強化し、紹介元への情報提供を充実させることも有用です。
紹介患者は治療必要度が高く、診療単価も高い傾向にあるため、経営改善に直結します。
患者数を増やすと同時に、患者1人あたりの診療単価を高める視点も必要です。
単価の向上は、病院の収益性を直接的に改善します。
より専門性の高い医療の提供や、精密な検査の実施などがその一例です。
ただし、過剰な診療は医療の信頼を損なうため、避けなければなりません。
あくまでも患者にとって必要な医療を提供したうえで、算定できる項目を正確に算定する姿勢が大切です。
医療の質と経営の質を両立させる意識が求められます。
入院料は病院収益の大きな柱であり、その算定管理は重要です。
看護職員の配置や重症患者の割合などによって決まる入院基本料は、要件を正確に満たし、より高いランクを目指すことが収益増に直結します。
専門的な治療や手厚い看護体制などを評価する「加算」も、収益に大きく貢献します。
算定要件を正しく理解し、取得可能な加算を漏れなく請求する体制を整えましょう。
地道な取り組みですが、経営改善効果は大きいといえます。
固定費は患者数の増減にかかわらず毎月発生する費用で、削減できれば安定的な利益改善につながります。
まずは高額な医療機器のリース契約や、施設の賃料などを見直すことから始めましょう。
たとえば、使用頻度の低い機器は、共同利用や必要なときだけレンタルする形態も考えられます。
また、エネルギーコストの削減も有効な手段の1つです。
院内の照明をLEDに切り替えるなど、長期的な視点でコスト削減に取り組むことが有用です。
変動費の中で大きな割合を占めるのが医薬品や診療材料費で、在庫管理を徹底することで最適化できます。
過剰な在庫は使用期限切れによる廃棄ロスや、管理コストの増大を招くからです。
各部門の在庫量を正確に把握し、適正な水準に保つ仕組みを作りましょう。
また、ジェネリック医薬品の採用率を高めることも、費用削減に有効です。
院内で使用する医薬品の標準化を進め、共同購入などで価格交渉力を高める方法も検討の価値があります。
院内の努力だけでは、経営改善に行き詰まってしまうケースも少なくありません。
そのような場合は、客観的な視点を持つ外部の専門家へ相談するのも有効な選択肢です。
病院経営のコンサルタントは、豊富な知識と経験を持っています。
自院では気づけなかった課題の発見や、他院の成功事例に基づいた具体的な改善策の提案が期待できます。
とくに、組織改革や人事制度の構築といった分野では、専門家の知見が大きな助けとなるでしょう。
改革を円滑に進めるための、心強いパートナーになり得ます。
病院経営の改善は、財務的な施策と組織改革の両立が不可欠であり、その実行は容易ではありません。管理職が機能しない、あるいは職員の離職が絶えないといった組織の問題は、多くの経営者を悩ませる根深い課題です。
P-UP neo × 識学では、組織マネジメントに着目したコンサルティングを通じて、「マネジメントの正解」をお伝えしています。自らも識学の導入で成果を上げた専門家から、実践的なノウハウを得ることは改革の近道となるでしょう。まずは無料相談や資料ダウンロードから、課題解決の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。