病院の経営改善を進めたいものの、どこから着手すべきか悩んでいませんか?
感覚的な判断基準のままでは職員の理解を得にくく、改革の推進は困難です。
そこで要となるのが、客観的な指標であるKPI(重要業績評価指標)の導入です。
本記事では、KPIの基本的な知識から具体的な設定手順、導入したKPIを形骸化させずに運用していく秘訣を解説します。
ぜひ、貴院の未来を拓く参考としてご活用ください。
KPIは単なる目標数値ではなく、病院経営の未来を左右する羅針盤の役割を果たします。
その意味や関連用語を曖昧なまま進めると、導入の失敗につながりかねません。
ここでは、以下3つのポイントを解説します。
それぞれ見ていきましょう。
KPI(Key Performance Indicator)とは「重要業績評価指標」を意味し、組織の最終目標を達成するための中間目標を指します。
日々の業務が最終目標にどれだけ貢献しているかを可視化するものです。
医療業界では、質の高い医療の提供と健全な経営の両立が常に求められます。
KPIを設定することで、職員一人ひとりの頑張りが経営改善につながっていると、モチベーションを維持・向上させるうえでも欠かせません。
漠然とした経営目標を具体的な行動レベルに落とし込み、組織全体で共有するための重要な架け橋がKPIです。
KPIを正しく設定するには、KGI(Key Goal Indicator)とKSF(Key Success Factor)との関係を理解し、目標達成までの3点セットと考えると分かりやすくなります。
たとえば「3年後に地域でもっとも信頼される病院になる」という最終目標がKGI(重要目標達成指標)だとします。
そのための成功要因、「患者満足度の向上」がKSF(重要成功要因)に該当。
KSFを達成するための行動計画、「待ち時間を約10分短縮する」などがKPI(重要業績評価指標)です。
このようにKGIから逆算してKSFを特定し、さらにKPIへ分解することで、目標達成が明確になります。
病院経営のKPIは、利益追求が主となる一般企業とは大きく異なり、人の命や健康を預かるという特性を常に念頭に置かなければいけません。
一般企業では、売上や利益率が最重要KPIとなることが多いです。
一方、病院では経営の安定性に加え、「医療の質」や「患者満足度」といった非財務的な指標が肝要になります。
たとえば、病床稼働率だけをKPIにすると、医療の質の低下を招くおそれがあるため注意が必要です。
財務指標と非財務指標のバランスをとり、医療の本質を見失わないKPI設定が、病院経営では強く求められます。
KPIを設定することは、感覚的な経営から脱却し、客観的なデータに基づいた組織運営へと転換する強力なきっかけとなるでしょう。
これにより、院長や経営層だけでなく、現場の職員一人ひとりにもよい影響が生まれます。
ここでは、以下3つのメリットを紹介します。
詳しく見ていきましょう。
KPIを設定する最大のメリットは、経営判断の精度が格段に上がることです。
客観的な数値データが、意思決定の確かな根拠となるでしょう。
これまで「なんとなく収益が落ちている」と感じていた課題が、「新規患者数が前年比10%減」といった具体的な数値で把握できます。
感覚や経験だけに頼るのではなく、データという事実に基づいて次の改善点を考えられ、より的確で迅速な経営判断が可能になります。
KPIは、病院全体で目指すべき方向性を共有するための共通言語として機能します。
経営層が掲げる理念やビジョンを、現場の行動レベルまで浸透させられます。
たとえば「患者様に寄り添う医療」という理念も、KPIがなければ個人の解釈に委ねられてしまうでしょう。
しかし「満足度アンケートで高評価80%以上」とKPIを設定すれば、全部署が同じ目標を意識して行動でき、部署ごとの役割も明確になります。
組織の向かう先が1つになることで、一体感が生まれ、パフォーマンス向上につながります。
KPIは、競合との差別化を図るための戦略を効果的に進めるうえでも役立ちます。
自院の強みを可視化し、さらに伸ばすための具体的な目標を設定できるからです。
たとえば「丁寧なカウンセリング」を強みとするなら、「初診患者の平均診察時間」や「紹介率」をKPIに設定します。
その数値を継続的に計測することで、戦略が計画どおりに進んでいるか、期待した効果が出ているかを客観的に評価できます。
計画を実行したら、その効果を正しく測定し次の改善に生かすというサイクルで、戦略の精度が着実に高まっていきます。
KPIの重要性やメリットを理解しても、実際の導入でつまずくケースは少なくありません。ここでは、以下7つの設定方法を解説します。
それぞれ見ていきましょう。
KPI設定の第一歩は、自院の現状を正しく把握することから始まります。
思い込みや感覚ではなく、客観的なデータに基づいて課題を洗い出すことが大切です。
まずは財務諸表やレセプトデータ、患者アンケートなど、入手可能なあらゆるデータに目を通しましょう。
収益構造や患者数の推移、職員の勤続年数など、さまざまな角度から分析します。
すると「収益は安定しているが、若手職員の離職率が高い」といった、これまで見えていなかった本当の課題が浮かび上がってくるはずです。
この現状分析が、的確なKPI設定の土台となります。
次に、病院全体で目指す最終目標であるKGIを設定します。
単なる目標数値ではなく、職員の心を動かすような、魅力的で分かりやすい言葉で示すことが大切です。
たとえば「地域住民が家族にも薦めたいと思う病院になる」といった、誰もがその実現を願うようなビジョンを掲げます。
このKGIが、これから設定するすべてのKPIの拠り所となり、職員が困難に直面した際の旗印となります。
院長の想いを込めた、明確で力強いメッセージを発信しましょう。
職員の共感を得られるかどうかが、プロジェクトの成否を大きく左右します。
KGIを掲げただけでは、日々の業務は変わりません。
KGIを達成するための具体的な行動指標であるKPIへと分解していく作業が必要です。
「地域でもっとも信頼される病院になる」というKGIを達成するには、何が必要かを考えなければなりません。
たとえば「医療の質向上」や「待ち時間の短縮」をKSFとします。
さらに「インシデント発生率の5%削減」や「待ち時間を15分以内に短縮」といった、測定可能なKPIに落とし込みます。
KGIから逆算してKPIを設計することで、日々の行動と最終目標が論理的に結びつくでしょう。
KPIが決まったら、具体的な目標数値を設定します。
現場の職員が「頑張れば達成できそう」と感じられる、現実的なレベルを目指すことが肝心です。
目標設定の際は「SMART」と呼ばれるフレームワークが役立ちます。
目標が以下5つの要素を満たしているかを確認する手法です。
現場の意見も聞きながら、納得できる数値を設定することが、第一歩となります。
KPI導入を成功させるには経営層だけでなく、現場の各部門を巻き込んだ推進体制が不可欠で、全職員が当事者意識を持つことが大切です。
各部門からキーパーソンを選出し、KPI推進チームを組織しましょう。
このチームが中心となり、設定したKPIの目的や意義を現場の隅々まで丁寧に説明し、なぜ必要なのかを対話を通じて伝えます。
その際、KPI達成が職員自身の成長や待遇改善にどうつながるかを示すことも有用です。
全院的なプロジェクトとして進めることで、やらされ感をなくし、主体的な取り組みを促します。
KPIは設定して終わりではありません。
むしろ、運用を開始してからが本番です。
形骸化させないためには、進捗を確認し、改善につなげるためのルールをあらかじめ決めておく必要があります。
たとえば、以下のような具体的なルールを設けます。
定期的にKPIに触れる機会を作ることで、常に目標を意識する文化が醸成されるでしょう。
この仕組み作りを徹底することが、KPIを組織に根付かせるための鍵となります。
一度設定したKPIも、外部環境や内部状況の変化に応じて、柔軟に見直していく姿勢が大切です。
当初は適切だった目標が、いつの間にか現状に合わなくなっていることもあります。
たとえば、新しい治療法が導入されたり、競合となるクリニックが開業したりした場合、見直すべきKPIが出てくるかもしれません。
定期的にKPIの妥当性を評価し、必要であれば目標を修正し、よりよい未来へ導くためのツールであるという認識を忘れないようにしましょう。
この改善サイクルを回し続けることで、組織は常に成長できます。
優れたツールも、それを使う組織や管理職が機能していなければ宝の持ち腐れです。
「管理職が育たない」「従業員の離職が絶えない」といった課題を抱えたままでは、KPIも力を発揮できません。
P-UP neoでは、意識構造に着目したマネジメント理論「識学」で組織改革を成功させ、多くの企業の課題解決を支援しています。KPIを最大限に生かす組織作りにご興味をお持ちでしたら、まずは無料相談で貴院の課題をお聞かせください。