なぜ、あの病院はV字回復できたのか?組織を変えて経営を改善した病院の成功事例

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医療を取り巻く環境が厳しさを増す中、多くの病院が経営改善という待ったなしの課題に直面しています。
「最新の医療機器を導入した」「コスト削減を徹底した」「増患のためにホームページを刷新した」。
日夜、様々な施策を講じているにもかかわらず、なぜ収益は思うように上がらず、現場の疲弊は深まるばかりなのでしょうか。

その答えは、多くの経営改善策が実は根本的な原因にアプローチできていない「対症療法」で終わってしまっているからです。
そして、その根本原因のほとんどは、病院という組織の「仕組み」そのものに潜んでいます。
この記事では、赤字経営、高い離職率、常態化する残業といった、多くの病院が抱える共通の課題を紹介し、その解決策を事例とともに解説します。

その経営改善策、「対症療法」で終わっていませんか?

多くの病院経営者が、良かれと思って多大な労力を投じている経営改善策。
しかし、その多くが、なぜか持続的な成果に結びつきません。
それは、打ち出される施策が、病気の「症状」を一時的に和らげる対症療法に過ぎず、病気の「根源」にアプローチできていないからです。
例えば、「病床稼働率が低い」という症状に対し、「営業を強化して入院患者を増やそう」という施策を打つ。

一見、正しく見えますが、もし院内の入退院調整プロセスが非効率で、常にベッドコントロールが滞っている状態(=根源)であれば、いくら新しい患者を受け入れても現場が混乱し、平均在院日数が延び、結果として稼働率は改善しません。
むしろ、現場の負担が増大し、医療の質の低下やインシデントの増加といった新たな問題を引き起こしかねないのです。

同様に「人件費が高い」という症状に対し、「職員の賞与をカットする」「昇給を抑制する」といった施策を打てば、短期的にはコストは下がるかもしれません。
しかし、もし根本原因が「曖昧な指示命令系統による無駄な手戻り作業」や「非効率な業務プロセスによる常態化した残業」にあれば、職員のモチベーションは著しく低下し、離職率が悪化します。
結果として、優秀な人材が流出し残された職員のさらなる業務負荷増によって、中長期的にはさらに人件費を圧迫するという、本末転倒の結果を招きます。

真の経営改善とは、表面的な財務指標の変動に一喜一憂することなく、その数値を生み出している組織内部の「構造」や「仕組み」に目を向け、その根本的な欠陥を治療することに他ならないのです。
症状を抑えるだけの対症療法から脱却し、病気の根治を目指す。
その視点の転換こそが、持続可能な経営改善の第一歩となります。

なぜ多くの病院の経営改善は失敗するのか?3つの典型的なパターン

対症療法から抜け出せない病院の経営改善は、なぜ失敗に終わってしまうのでしょうか。
そこには、多くの組織に共通する3つの典型的な失敗パターンが存在します。
これらのパターンを理解することは、自院の現状を客観的に見つめ直すための重要な手がかりとなります。

パターン①:根本原因を無視し、財務指標の改善だけを追いかける

経営改善の第一歩として、損益計算書や貸借対照表を分析し、経営指標(KPI)を設定することは非常に重要です。
しかし、これが失敗の入り口になることもあります。
それは、「KPIを改善すること」自体が目的化してしまうケースです。

例えば、経営会議の場で「今月の平均在院日数は目標未達の16.5日だった。
来月は必ず15日台を達成するように」「材料費率が前年同月比で0.5ポイント悪化している。各部署、コスト意識を徹底するように」といった指示が、具体的な方法論や現場の実行体制を伴わずに、トップダウンで現場に下ろされる。
現場の職員は、なぜその目標を達成しなければならないのか、そのために具体的に何をすればよいのかを理解できないまま、ただただプレッシャーだけを感じることになります。

これでは、現場は疲弊し、モチベーションは低下する一方です。 数字はあくまで結果であり、健康診断の数値と同じです。
体温が高いという結果に対して、「体温を下げろ」と言うだけでは意味がなく、なぜ熱が出ているのか(感染症なのか、炎症なのか)という根本原因を探り、それに応じた治療(抗生剤の投与など)をしなければなりません。
経営も同様で、結果である数値を動かすためのプロセス、すなわち「組織の動き方」そのものを変えなければ、指標が持続的に改善することはないのです。

パターン②:現場の実行体制を整えず、戦略だけが先行する

経営陣が外部のセミナーや書籍で学んだ最新の経営戦略を、そのまま自院に導入しようとして失敗するケースも後を絶ちません。
「これからは地域包括ケアシステムの時代だ。訪問看護ステーションを立ち上げよう」「医療DXを推進するために、AI問診システムを導入しよう」。
戦略そのものは正しく、時流に乗ったものであっても、それを実行する現場の体制が整っていなければ、戦略は絵に描いた餅で終わってしまいます。

新しい事業を担う人材はいるのか。
職員は新しいシステムを使いこなせるのか。
そもそも、既存の業務プロセスに多大な無駄があり、職員が日々の業務に忙殺されている状態で、新たな取り組みを行う余裕はあるのか

例えば、素晴らしい性能を持つ最新の手術支援ロボットを導入しても、それを操作する医師の育成計画や、メンテナンスを行う臨床工学技士の配置、そして手術室の効率的な運用ルールが整備されていなければ、その性能を十分に引き出すことはできず、宝の持ち腐れとなってしまいます。
戦略を描くこと以上に、その戦略を実行できるだけの強固な「組織基盤」を構築することの方が、はるかに重要かつ困難なのです。

パターン③:院長のリーダーシップに依存し、「仕組み」で解決しようとしない

「うちは院長のリーダーシップで持っている病院だ」。これは一見、強みに聞こえますが、実は極めて脆弱な経営状態であると言えます。
カリスマ的な院長が、その情熱と卓越した能力で組織を牽引し、様々な課題をトップダウンで解決していく。
このスタイルは、短期的には高い成果を生むことがあります。
しかし、その院長が不在になった瞬間に、組織は機能不全に陥ります。

院長の指示がなければ、誰も動けない。
部門間の対立を調整できる人間がいない。
次世代のリーダーも育っていない。

このような「属人的」な経営は、持続可能性という観点からは極めてリスクが高いのです。
真に強い組織とは、特定の個人の能力に依存するのではなく、院長が交代しても、誰がどのポジションについても、組織が一定のパフォーマンスを発揮し続けられる、再現性のある「仕組み」や「ルール」によって運営されている組織です。

院長の仕事は、自らがスーパープレイヤーとして現場の問題を解決し続けることではなく、自分が不在でも問題が解決される「仕組み」を構築し、組織に残すことなのです。

【課題別】組織を変えてV字回復した病院経営の改善事例

では、これらの失敗パターンを乗り越え、本質的な組織改革によってV字回復を遂げた病院は、具体的に何を行ったのでしょうか。
ここでは、多くの病院が抱える共通の課題別に、5つの成功事例を分析していきます。

【事例①:収益改善】赤字経営から脱却。多職種連携を「仕組み化」し、病床稼働率を最大化したA病院

都心から少し離れた郊外に位置する、200床規模の急性期病院であるA病院。
長年、地域の基幹病院としての役割を担ってきましたが、近隣に新設された大規模病院との競争が激化し、紹介患者数が減少。
病床稼働率は80%を割り込み、慢性的な赤字経営に苦しんでいました。

Before:セクショナリズムが蔓延し、入退院調整が常に滞っていた

A病院の最大の課題は、院内に蔓延する強いセクショナリズムでした。
医師、看護師、リハビリ部門、ソーシャルワーカー(MSW)が、それぞれ自分たちの専門領域に閉じこもり、他部署との連携を軽視する風潮がありました。
その結果、入退院の調整プロセスが常に滞っていました。

例えば、主治医が退院の許可を出しているにもかかわらず、その情報がMSWに正確に伝わっておらず、転院先の調整が遅々として進まない。
あるいは、看護部が「まだ在宅復帰には早い」と判断し、リハビリ部に十分な情報共有をしないまま退院計画が進んでしまう。
こうした連携不足が、不要な入院期間の長期化、すなわち平均在院日数の悪化を招き、ベッドの回転を著しく阻害していました。会議を開いても、各部署が自分たちの都合を主張するばかりで、具体的な解決策は見出せない状態でした。

After:平均在院日数が〇日短縮、年間〇千万円の収益改善に成功

A病院が導入したのは、各部門・各役職の「役割」と「責任範囲」を徹底的に明確化する組織改革でした。
まず、「入退院支援委員会」を単なる情報共有の場から、明確な権限を持つ意思決定機関へと再定義。
そして、患者の入院から退院までの一連のプロセスにおいて、「誰が」「いつまでに」「何を」行うべきか、その責任の所在を一つひとつ定義し直しました。

例えば、「入院が決定した患者については、24時間以内にMSWが初回面談を実施し、退院支援計画の原案を作成する責任を負う」「主治医は、術後3日目の時点で、退院の暫定的な見込み日を委員会に報告する責任を負う」「退院日が決定したら、看護部は2日以内に退院サマリーを作成し、連携先のクリニックに送付する責任を負う」といったように、すべてのタスクに明確な担当者と期限を設定。

これにより、「言った、言わない」「誰かがやってくれるだろう」という曖昧さが一掃され、多職種が同じ目標に向かって、迷いなく動ける仕組みが構築されたのです。
この「仕組み化」による効果は絶大でした。
これまで滞っていた入退院プロセスが劇的にスムーズになり、改革導入後わずか1年で、平均在院日数は17.2日から13.7日へと3.5日も短縮されました。

【事例②:人材定着】離職率30%超。評価制度の刷新で、職員が辞めない組織へと変貌したBケアミックス病院

急性期から慢性期、在宅まで、幅広い医療機能を持つBケアミックス病院。
地域にとって不可欠な存在である一方、長年にわたり看護師の高い離職率に悩まされていました。
特に、経験3〜5年目の中堅看護師の離職が相次ぎ、一時は年間離職率が30%を超える危機的な状況に。
新人教育は追いつかず、残された職員の負担は増すばかりで、現場は疲弊しきっていました。

Before:評価基準が曖昧で、職員の不満とモチベーション低下が深刻化

B病院の離職率が高い最大の原因は、人事評価制度が事実上、機能不全に陥っていたことでした。
評価基準は「協調性」「積極性」「リーダーシップ」といった極めて曖昧な項目が並ぶだけで、何をどう頑張れば評価されるのか、職員には全く分かりませんでした。
実際の評価は、看護師長の主観や印象に大きく左右され、「声の大きい人」「上司に気に入られている人」ばかりが評価されるという不公平感が蔓延

真面目に日々の業務をこなし、着実にスキルを身につけている職員が正当に評価されず、モチベーションは著しく低下。
「この病院にいても、将来のキャリアは描けない」と、優秀な中堅職員から見切りをつけられてしまう、という悪循環に陥っていました。

After:離職率が〇%まで低下し、採用コストの大幅な削減を実現

B病院は、この曖昧な評価制度を完全に撤廃し、「組織への貢献度」を客観的な事実に基づいて測る、新たな評価制度を導入しました。
まず、看護師の等級ごとに、求められる「役割」を明確に定義。
例えば、「新人看護師」には「指導者の下で、定められた手順を95%以上の正確性で実施できる」こと、「中堅看護師」には「担当患者5名以上のケアプランを自律的に立案・実行し、新人看護師1名のプリセプターを担う」こと、といった具体的な役割を設定しました。

そして、その役割を達成できたかどうかを測るための、具体的な評価項目(KPI)を設定。「時間外労働時間」「インシデント報告件数(報告すること自体をプラス評価)」「担当患者の満足度アンケート結果(5段階評価で平均4.0以上)」「プリセプターとしての新人指導達成度」など、可能な限り客観的な数値や事実で測れる項目を導入しました。

評価者である看護師長に対しても、部下をこれらの基準に基づいて公平に評価するための徹底したトレーニングを実施。
評価のプロセスと結果はすべて本人に開示され、次の成長に向けた具体的な目標設定を行う面談を義務化しました。

「何をすれば評価されるのか」が明確になったことで、職員の行動は劇的に変化しました。
自身のキャリアアップのために、主体的にスキルを磨き、組織への貢献を意識して働く職員が増加。
曖昧な評価への不満は解消され、組織全体のエンゲージメントが向上しました。

【事例③:業務効率化】残業が常態化し疲弊する現場。院長のマネジメント改革で生産性を劇的に向上させたCクリニック

地域で評判の高い、50名規模の整形外科クリニックであるCクリニック。
院長は名医として知られ、多くの患者から信頼を集めていましたが、経営者としては大きな課題を抱えていました。
それは、すべての意思決定を自分一人で行ってしまう、典型的な「プレイングマネージャー」であったことです。

Before:「院長=プレイングマネージャー」から脱却できず、指示命令系統が混乱

クリニックでは、看護師長や事務長といった中間管理職はいるものの、彼らに十分な権限が与えられていませんでした。
些細な備品の購入から、スタッフのシフト調整、他院への紹介状の文面チェックまで、すべてが院長の決裁を必要とする状態。

院長は日々の診療で多忙を極めているため、当然ながら意思決定は常に遅延。
現場のスタッフは、「院長の指示待ち」で動けず、業務は非効率化する一方でした。

さらに、院長が忙しさのあまり、看護師長を飛び越えて、直接現場の看護師に指示を出してしまうことも頻発。
看護師長と院長の指示が食い違うこともあり、現場は「誰の指示に従えばいいのか」と大混乱。
無駄な手戻り作業が多発し、職員の残業は常態化。クリニック全体の生産性は著しく低下していました。

After:職員一人当たりの残業時間が月平均〇時間削減、外来患者数は増加

Cクリニックが着手したのは、院長の役割を「最高のプレイヤー」から「最高の監督(マネージャー)」へと転換させるための、徹底した組織改革でした。
まず、院長、看護師長、事務長、そして各スタッフの「役割」と「権限」を明確に定義。

例えば、「月額10万円までの備品購入は、事務長の権限で決裁可能」「スタッフのシフト管理と労務管理に関する一次責任は、看護師長が負う」といったように、具体的な権限を中間管理職へ大胆に移譲しました。
そして、「報告・連絡・相談」のルールを徹底。
現場のスタッフは、直属の上司である看護師長あるいは事務長にのみ報告し、指示を仰ぐ。

看護師長・事務長は、自身の権限で解決できない問題のみを、院長に相談する
この指示命令系統の一本化を、組織の絶対的なルールとして定着させました。
指示命令系統が整理され、現場に権限が移譲されたことで、組織の意思決定スピードは劇的に向上しました。

スタッフはもう「院長の指示待ち」で立ち止まることなく、自らの役割と責任の範囲で、自律的に動けるように。
無駄な手戻りや待ち時間がなくなり、職員一人当たりの月平均残業時間は、改革前の35時間から20時間へと、15時間もの大幅な削減に成功しました。

【事例④:人材育成】院長の右腕が育たない。次世代リーダーの育成に成功したD回復期リハビリテーション病院

D回復期リハビリテーション病院は、院長の強力なリーダーシップのもとで成長を続けてきましたが、院長が60代を迎え、将来の事業承継が大きな経営課題となっていました。
しかし、院内に「次の病院を任せられる」ような、経営視点を持ったリーダー人材が見当たらない。それが院長の最大の悩みでした。

Before:優秀な中間管理職が育たず、院長の負担が増加の一途を辿っていた

D病院の中間管理職たちは、プレイヤーとしては優秀なものの、マネージャーとしての役割を十分に果たせていませんでした。
その原因は、彼らに求められる「管理職としての役割」が何なのか、明確に定義されていなかったことにあります。

彼らの評価は、依然として個人の臨床実績や患者からの評判が中心で、「部下を育成する」「部門の目標を達成する」といったマネジメント業務は、評価の対象として曖昧なままでした。
そのため、彼らはマネジメント業務を「本来の業務にプラスされた面倒な仕事」と捉えがちで、部下の育成や組織運営に真剣に向き合おうとしません。

結果として、あらゆる問題が最終的には院長のもとに集まり、院長の負担は増える一方。
これでは、次世代のリーダーが育つはずもありませんでした。

After:内部から複数の管理職候補が台頭し、自律的に動く組織文化が醸成

D病院は、管理職の役割を「一部門を経営する小さな経営者」と再定義し、その役割を果たすための育成と評価の仕組みを一体で改革しました。
まず、各管理職に、部門の収益、コスト、人材定着率に関する具体的な数値目標(KPI)を設定
その達成度を、賞与や昇進に直結する評価の最重要項目としました。
これにより、管理職の意識は「個人のプレイヤー」から「部門のマネージャー」へと大きく転換。
評価されるために、彼らは嫌でもマネジメントと向き合わなければならなくなりました。

改革後、これまで受け身だった中間管理職たちが、自部門の目標達成のために、主体的に考え、行動するようになりました。
部下のパフォーマンスを上げるためにどうすればよいか、どうすれば部門間の連携がスムーズになるか、といった経営的な視点が芽生え始めたのです。
院長は、彼らに権限を移譲し、その意思決定を尊重することで、さらなる成長を後押ししました。

【事例⑤:リスクマネジメント】ヒューマンエラーが多発。ルール運用の徹底で、医療安全体制を再構築したE精神科病院

E精神科病院では、患者の無断離院や、与薬ミスといったインシデントが、対策を講じているにもかかわらず、散発的に発生していました。
幸い、重大な事故には至っていませんでしたが、いつ起きてもおかしくない状況に、経営陣は強い危機感を抱いていました。

Before:形骸化したルールと「個人の注意」に依存した、脆弱なリスク管理体制

E病院にも、もちろん医療安全に関するマニュアルやルールは存在しました。
しかし、それらは形骸化していました。
例えば、「患者の離院防止のため、病棟の出入り口は必ず施錠すること」というルールがあっても、忙しい時間帯には「ちょっとだけなら大丈夫だろう」と、鍵が開けっ放しになることが黙認されている。

与薬のダブルチェックも、手順が面倒だという理由で、いつの間にか簡略化されてしまっている。
インシデントが起きると、院長は「もっと注意するように」と全職員に注意喚起をしますが、効果は一時的。
問題の根本原因は、「ルールを守らない個人の意識の低さ」にあると考えられており、なぜルールが守られないのか、その構造的な問題にまで目が向けられていませんでした。

After:インシデントレポート数が〇%減少し、職員のリスク管理意識が向上

E病院が行ったのは、単なるルールの再確認ではなく、ルールが「守らざるを得ない仕組み」の再構築でした。
まず、院内に存在するすべてのルールを見直し、「~するように心がける」といった曖昧な表現を一切排除

「病棟の出入り口は、人が出入りする時以外、常に施錠されていなければならない。
最終的な施錠確認の責任者は、各勤務帯のリーダー看護師とする」というように、「誰が」「何を」「どのような状態で」保つ責任があるのかを、具体的に再定義しました。

ルールが「仕組み」として機能し始めた結果、これまで散発していたヒューマンエラーに起因するインシデントの報告件数は、改革前に比べて70%も減少しました。
職員は、「ルールだから守る」というだけでなく、「なぜこのルールが必要なのか」を自ら考えるようになり、組織全体のリスク管理に対する意識が格段に向上しました。

成功事例に共通する、たった一つの本質的な要因

収益改善、人材定着、業務効率化、人材育成、リスクマネジメント。
これまで見てきた5つの成功事例は、取り組んだ課題こそ異なりますが、その成功の裏側には、驚くほど共通した、たった一つの本質的な要因が存在します。

それは「組織マネジメントの仕組み化」に他ならない

これらの病院が成し遂げたこと、それは、院長の情熱や、特定の優秀な職員の頑張りといった、属人的で不確実な要素に頼る経営からの脱却です。
彼らは、誰がどのポジションについても、組織が一定の品質と生産性を保ち、成長し続けられる「仕組み」を構築しました。

曖昧だった「役割」を明確に定義し、「責任の所在」を明らかにする
感覚や慣習で行われていた業務を、具体的な「ルール」に落とし込む。
そして、組織が目指す正しい行動を促すための「評価制度」を設計し、運用する。
この3つの要素を体系的に連動させ、組織運営そのものを「仕組み化」したこと。
これこそが、すべての成功事例に共通する、唯一無二の成功要因なのです。

「意識改革」ではなく「行動変容」を促すアプローチ

成功した病院は、「職員の意識を変えよう」とは考えませんでした。
なぜなら、人の意識やモチベーションという、目に見えず、移ろいやすいものを直接コントロールすることは不可能だと知っているからです。

彼らがアプローチしたのは、意識ではなく「行動」です。
明確なルールと、それを守らざるを得ない評価制度という「環境」を整えることで、職員の「行動」を変容させたのです。
正しい行動が、最も合理的で、最も評価される選択肢となるような仕組みを作れば、人は自然と正しい行動を取るようになります。
そして、その行動を継続する中で、結果として意識も変わっていく。
この「行動変容」から「意識改革」へという逆転の発想こそが、改革を成功に導く鍵となります。

カリスマ院長がいなくても、持続的に成長する組織の作り方

これらの事例は、決して特別な才能を持つカリスマ院長だけが実現できるものではありません。
むしろ、その逆です。
これは、「普通のリーダー」であっても、持続的に成長する強い組織を作ることができる、極めて再現性の高い方法論です。
組織運営の原理・原則を正しく学び、それを自院の状況に合わせて「仕組み」として導入する。
その覚悟と実行力さえあれば、どんな組織でも変わる可能性を秘めているのです。

なぜ、自院だけでの組織改革はこれほどまでに難しいのか?

「仕組み化」の重要性を理解しても、それを自院の力だけで実行に移すことは、なぜこれほどまでに難しいのでしょうか。
そこには、多くの病院が直面する、避けては通れない3つの壁が存在します。

院内の人間関係や過去の慣習が変革のブレーキとなる

「昔から、このやり方でやってきた」「あの先生に反対されたら、何も進まない」。
長年かけて築かれた院内の人間関係や、根強い慣習は、新しい仕組みを導入する上で、強力な抵抗勢力となります。

経営者自身も、その「しがらみ」の中で物事を進めなければならず、本来あるべき理想的な改革案が、骨抜きにされてしまうケースが後を絶ちません 。
特に、変化を嫌うベテラン職員や、特定の部署の有力者からの反発は、改革を頓挫させる大きな要因となり得ます。

客観的な視点の欠如により、本質的な課題を見誤る

「灯台下暗し」という言葉があるように、毎日同じ環境にいると、その組織のどこに問題があるのか、客観的に見ることが極めて難しくなります。
内部の人間にとっては「当たり前」の光景が、実は組織の生産性を著しく下げている根本原因である、という事実に気づくことができません。

例えば、毎朝行われている非効率な朝礼や、目的が曖昧なまま続けられている定例会議など、第三者の目から見ればすぐに改善点が見つかるような慣習も、内部からは「そういうものだ」と見過ごされがちです。
この客観的な視点の欠如が、対症療法から抜け出せない最大の理由の一つです。

日々の診療業務に追われ、改革に割く時間とエネルギーがない

特に中小規模の病院では、院長がプレイングマネージャーとして、日々の診療業務の中心を担っているケースがほとんどです。
目の前の患者の対応に追われる中で、腰を据えて組織全体の仕組みを設計し、改革を推進していくための時間と精神的なエネルギーを確保することは、物理的に不可能です。

組織改革は、片手間でできるような簡単なものではありません。
現状分析、課題特定、解決策の立案、現場への説明、制度の導入、そして定着までのフォローアップと、膨大な工数を要します。
結果として、改革への意欲はあっても、「いつかやろう」と先延ばしにされ続けてしまうのです。

外部コンサルティングを活用し、経営改善を加速させるという選択肢

これらの壁を乗り越え、本質的な組織改革を最短距離で、かつ確実に実行するための一つの有効な手段が、組織マネジメントを専門とする外部コンサルティングの活用です。

組織コンサルティングがもたらす3つの価値

優れたコンサルタントは、単なるアドバイザーではありません。
改革を成功に導くための、3つの重要な価値を提供します。

価値①:客観的な組織診断と、課題の構造化

外部の専門家は、しがらみのない第三者の視点から、組織を冷静に診断します。
経営者や職員へのヒアリングを通じて、これまで誰も気づかなかった、あるいは見て見ぬふりをしてきた本質的な課題を特定し、その根本原因がどこにあるのかを論理的に構造化します。
「なんとなく組織の風通しが悪い」といった曖昧な問題意識を、「指示命令系統の混乱による、部門間の責任の押し付け合い」といった、具体的な解決可能な課題へと変換してくれるのです。

価値②:しがらみに捉われない、改革の断行

コンサルタントは、院内の人間関係から完全に独立した立場で、組織にとって本当に正しいことは何かを、経営者に進言します。
時に耳の痛い指摘も厭わない彼らの存在は、経営者がしがらみを乗り越え、改革を断行するための強力な後ろ盾となります。
「外部の専門家もこう言っている」という事実は、院内の抵抗勢力を説得する上でも有効な材料となり、改革の推進力を高めます。

価値③:再現性のある「マネジメントの型」の導入

最も重要な価値は、コンサルタント個人の経験則や感覚に頼るのではなく、他の多くの組織で成果が実証された、普遍的で再現性のある「マネジメントの型(仕組み)」を導入してくれることです。
これにより、コンサルティングが終了した後も、病院が自律的に成長し続けられる、持続可能な組織基盤が構築されます
院長が学ぶべきは、個別の問題解決スキルではなく、あらゆる問題に応用可能な、組織運営の「原理・原則」なのです。

成功事例は模倣するものではなく、その本質を学ぶもの

本記事で紹介した病院経営の改善事例は、それぞれが直面した課題も、その規模や機能も異なります。
しかし、そのV字回復の軌跡には、共通する一つの真理が流れています。
それは、経営の課題を、最終的にはすべて「組織」の課題として捉え、その「仕組み」を根本から変革した、という事実です。

これらの成功事例を、単に「A病院がやったから、うちも同じことをやろう」と、表面的な手法だけを模倣しても、おそらく成功はしないでしょう。
重要なのは、その成功の裏側にある「なぜ彼らは変わることができたのか」という本質、すなわち「組織マネジメントの原理・原則」を学ぶことです。

自院の組織には、どのような構造的な欠陥が潜んでいるのか。
その欠陥が、どのような経営課題を生み出しているのか。
そして、その欠陥を是正するためには、どのような「仕組み」を導入すべきなのか。 この問いと真摯に向き合い、変革への一歩を踏み出す覚悟を決めること。
それこそが、V字回復を成し遂げた病院の経営者たちが、例外なく行った最初のステップなのです。

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